第25回RSFT「女性と科学」 [fr]

プログラム

司会・モデレーター : ナタリー・カヴァザン博士、早稲田大学国際情報通信研究所客員研究員(東京)、サイエンススコープ副会長

サイエンススコープは、研究の世界で働く女性たちに光をあてることを初めて願います。科学の領域で実績のある人と関わりをもつことは、新しく入ってきた人たちの憧れをかきたてるための方法の一つです。さらに、日本にフランス語話者のネットワークを形成することの重要性は認知されていますが、それは体験を交換するためだけではありません。助け合うためでもあります。また、グローバリゼーションの進行とともに、国際的な経験をもつ研究者の数は増えつつあります。その経験は、時に独自なものでもあり、これに光をあてることは重要です。このセミナーは、日本のフランス語を話す研究者たちの交流を手助けし、研究者たちの多様な経験を前面に打ち出すことを目的としています。それは広い意味での科学に関する考察に新たな見解をもたらすでしょう。

招聘基調講演 12時50分-13時20分

・原山優子博士、東北大学工学研究科教授技術社会システム専攻 (仙台)、サン・ゴバングループ取締役会委員(フランス)

はじめに

平成21年1月12日、仙台市の成人式へ参列する機会を持ちました。エネルギーに満ち溢れた会場には、平成生まれの成人の輝かしい顔。「彼・彼女らが自らの手で切り開く人生とは?」、「この中の何人が研究者になるのだろうか?」と想像するとともに、遠ざかった二十歳の自分を思い起こすきっかけとなりました。
当時の私は、フランスのブザンソン大学で数学に没頭していた時期にあり、また結婚を頭の片隅に置いたころでもありました。その後、過去に囚われることも、先を読むこともなく、その時その時の体験を味わいつつ、40年近くが経過し、現在、東北大学の工学研究科において科学技術政策論を担当する一教員として過ごす日々が続きます。
これまで歩んできた道を振り返ると、プロフェッションとして研究者の道を選択したことになりますが、当初から計画したキャリアパスは不在でした。とは言え、いくつかの分岐点が存在し、そこではその後のキャリア・生き方に大きなインパクトを与えることになる意思決定を行ってきたことに気がつきます。ただし、これはあくまでも結果論であり、当時はその意味を知る由もありませんでした。
昨今、博士号取得者のキャリアパスの多様化、研究者の流動化、研究職における女性の比率の拡大、分野融合型研究の推進などが政策課題となり、ひいては社会一般に認知される課題となりつつあります。また、これらの課題に中には、私自身、あまり意識的にではありませんが、自ら実践し、あるいは体験してきたことと重なり合う部分が多々存在します。そこで、本稿では、私自身日々直面し、そして科学技術政策の論点としてあたためてきた「プロフェッションとしての研究者」について、専門分野の選択そして「女性である」という条件の2つの視点から再考することにいたします。

専門分野の選択

研究者であるということは体系化された学問分野のいずれかに帰属することを意味します。では、どの時点で、何を基準として研究者は自らの専門分野を選択するのでしょうか?
私の体験から申しますと、高校時代に興味を持った授業科目、そこでは担当の教員が醸し出す知を楽しむ雰囲気が大きく影響しましたが、その中から、成績も含む諸条件を踏まえて、専門分野として数学を選択しました。その後、30代になってから、再度学生として大学に復帰したときは、それまでの体験から社会問題として意識するに至った課題に向き合う手段を身につけたい、という動機が専門分野を選択する際の判断基準となりました。具体的には現行の大学システムに対する疑問から教育学を専攻したわけですが、その後、研究の分析枠組みを模索する中、たまたま経済学に巡り合い、それが持つ数学の香りに惹かれ、教育学と並行して経済学も専門分野と位置づけるようになりました。いわゆる「理系」の学問分野である数学から「文系」の学問分野である教育学に移籍し、「文系」とは言え「理系」寄りの経済学に専門分野を広げたことになります。現在に至っては、工学研究科に所属し、「理系」の世界の中で「文系」の調味料として機能しております。
過去の体験から専門分野の選択のカギを探ると、知的好奇心、教科の成績、社会的課題の存在、分析枠組みの獲得が浮かび上がってきます。また、選択の時点は、高校生から大学生へ、社会人から大学生への移行時、そして、研究を進める過程で専門分野の複線化の必然性を感じた時となります。これが私の個別解ですが、以下では一般解の模索として「理系・文系」の切り口から考察します。
「理系・文系」の二分法は、学問分野の分類法として日本に浸透していますが、「理系の人間」あるいは「文系の人間」と称されるように、個人のアイデンティティーの分類法としても広く認知されています。また、労働市場においては、学歴、性別、年齢と並んで、格差をもたらす影の要因としても存在します。本稿にもすでに登場した語句ですが、何を持って「理系・文系」とするのでしょうか、そして、帰属の選択はどのようになされるのでしょうか。
理系・文系への分化は高等学校から、という印象を持ちますが、高等学校設置基準によれば「普通教育」と「専門教育」の二分法しか存在せず、また普通教育を取っても、制度的には理系・文系に区分されてはいません。よって、理系・文系への分化は制度上のものではなく、ファクトとして、大学進学を目指す際、便宜上の選択肢として「理系受験」と「文系受験」が登場する、ということがわかります。
さて、大学入学後の進路を「理系の学部」、「文系の学部」とあえて二分したとすると、獲得する専門性について、どのような差異が生じるのでしょうか。
知識の専門性という視点から「理系」と「文系」を比較すると、「自然及び人造物」と「人を主体とした現象及び創作物」、と取り扱う対象を異にし、また概念、知識体系、研究手法、評価システムにおいては更に細分化された分野毎に固有なものが存在します。しかし、専門性の基盤を成す、論理的思考、分析能力、批判的精神、課題探求力、といった科学的思考の本質的な部分に何ら違いを見出すことはできません。しばしば、「理系進学者」は論理性に、「文系進学者」は感性 に、それぞれ強みを持つとも言われますが、私個人の体験からすると、理系文系いずれも論理性と感性の両者を持ち合わせること無く専門性を極めることは難しいと考えます。また、科学技術の推進力として新領域、融合領域 が台頭しつつある今日、明確な線引きをすることの意義は更に薄らいでいくように思えます。
また労働市場に目を移すと、日本では慣習としてこの二分法がスクリーニングの手段として用いられてきました。明確な役割分担、固定化されたキャリア・システムが存在する場合は、この二分法による労働力配分にある程度合理性を見出すことができますが、オープンでイノベーティブな社会を目指すのであれば、このやり方は足かせとなりかねません。なぜなら、そこには、固定観念または既存の枠に縛られることなく創造性を発揮し、自らを取り巻く環境とインターアクションを取りながら社会的価値を生み出していく、言わば「理系・文系」の箱に収まらない人材が求められるからです。「理系・文系の呪縛」からの開放を唱える次第です。

「女性である」という条件

研究者の量的拡充と多様性の確保という視点から、政策課題として女性、若手、外国人の活用促進がうたわれるようになってから何年かが経過しました。また男女共同参画の動きも相成って、女性研究者の数を増やすべく、様々な制度、施策が導入されてきました。そして、その効果も徐々に出つつあるというのが今日の状況です。
「女性である」ということは、前述の専門分野と異なり、自ら選択することのできない与えられた条件であるわけですが、そもそも、研究者をプロフェッションとする際、「女性である」ことによる特異性は存在するのでしょうか。生物学的、脳科学的、人類学的、あるいは心理学的、社会学的な見地からの議論はそれぞれの専門家にお任せすることにして、私の体験から申しますと、学問分野に、ceteris paribusの条件下で、ジェンダーによる向き、不向きに有意差があるとは思えないし、科学的アプローチ に「男性流」、「女性流」があるわけでもない、というのが実感です。ただし、今日、個々の研究者が隔離された場所で研究を行うことは稀で、多くの場合何らかの組織に所属して活動することになり、そこでは構成メンバーが共有する価値体系、属性などに基づいてグループ・ダイナミックスが生じることになります。属性を共にする人同士にある種の連帯感、あうんの呼吸が発生することは自然な成り行きですが、多数派にこの傾向が強く見られる場合、当該属性を共有しない少数派の人々との調音が困難になることがしばしばあります。少数派への配慮と言う点からも、様々な機会を活用して、不協和音の存在を認める、不協和音を受け入れる、不協和音からハーモニーを引き出す、といった体験を重ねることが重要だと感じます。また、出産、育児といった子供との関わりにおいて、研究者であろうとなかろうと、母親の中核的な役割は不変のものと考えます。育児・家事に父親の協力を得ることができればそれに越したことはありませんが、無ければ無いで、怪我の功名とでも申しましょうか、研究者として活動する際に大いに役立つスキルを身につけることができます。日々の生活から、必然的に、限られた時間に複数のタスクを同時に遂行すること、そして、問題解決にあたって多面的なアプローチを試みることを体得していくからです。

おわりに

昨年は複数の日本の研究者がノーベル賞に輝き、研究者というプロフェッションに社会の関心が集まりました。また、受賞者の方々のお話は、進路を模索する若い世代の方々にとって、研究者が研究者たる所以を感じ取る機会になったのではないでしょうか。
最後に、プロフェッションとして研究者を、と考えている方々にメッセージを一言添えて、本論の締めくくりといたします。知的好奇心が原動力であることに疑いの余地はありませんが、それと同時に、与えられた枠を乗り越えることに、チャレンジし、それを楽しんでいただきたいと思います。その枠とは、自らが身を置く専門分野における研究のフロンティアであり、他の分野との境界線でもあります。特に「理系・文系」の枠は是非チャレンジの対象としてお考え下さい。そして、その境界線を越える手段として、自らとは異なる属性、バックグランドを持つ研究者とのディスカッションをお楽しみ下さい。

13時20分-15時20分 第一部: 違うことを祝おう。
パネル・ディスカッション「科学における女性」

・キャロル・フォシェ博士、筑波大学(つくば)「他者であること、同化プロセスと権力:中央アメリカ、カナダ、東南アジアでの20年間の研究生活を振り返って」

アイデンティティの形成は、現在社会学で人気の高い問題の一つです。なぜ、これほど多くの研究者がこの問題に興味を示しているのでしょうか。個人は、とあるコミュニティ、国家、民族、立場(以上は複数であることもありえます)に所属しています。逆説的に見えるかもしれませんが、グローバリゼーションにおいては、このことを肯定あるいは追認できる空間が常に生まれているからです。もちろんのことながら、アイデンティティの形成という問題に携わる研究者も、絶えず進行中のこの過程から離れることはありません。ゆえに、人類学者は、自らの研究領野を調査し始める度に、新しい文化的コードを特定し、学習することから始めます。それを獲得するのは骨が折れるがわくわくすることでもあります。さらには戸惑いを覚えることすらあります。というのも、振り返っては、世界に対する自分の位置づけがいかに不安定なものか必然的に思い知らされるからです。私が体験したことを例に、自分や他者を特徴づけるしるしやイメージの流動的な性格について考えていただければ幸いです。
・ソフィ・リヴォワラー博士、物質・材料研究機構 ナノセラミックスセンター(つくば)、フランス国立科学研究センター(CNRS) 先進技術創出研究機構(グルノーブル)
「磁気科学と磁場を用いたプロセス; より良い特性をもった物質に向けて」

磁気科学では、磁場によって実現する物理的プロセス、化学的プロセス、さらには生物学的プロセスを研究します。とりわけ、磁場によって物質の何らかの変化が期待されるため、磁場は物質創製のためのツールとして使われることもあります。この頃では、磁場発生技術の進展により、以前は無視されていた効果を際立たせるのに十分な強磁場を発生できるようになりました。物質科学において、物質の特性向上に向けた主要な方法はイノベーションです。イノベーションは、物質の既知の性質を向上とともに、生産のコストダウンから構成されます。これらの要素は、強磁場のように、実際の産業応用への適用が革新的に可能になった新技術を用いることで達成されます。しかしながら、磁気科学研究に携わる科学者は限られています。世界の中では、学術的にも産業的にも、日本の磁気科学研究が最もアクティブです。アメリカ、そして最近になって、中国や韓国のいくつかのグループが磁気科学研究に加わってきています。ヨーロッパでは磁気科学研究の コミュニティは非常に小さいですが、グルノーブルにある私たちCNRS / CRETA(先進技術創出研究機構)は、15年前からこの分野を代表するグループといえます。CRETAという組織は、強磁場の下での材料創成と関連装置のデザインの枠組みの中で、学術研究の成果を産業発展へと結びつける橋渡しの役目を担っています。CRETAは ヨーロッパにおいて、強磁場施設を有し、強磁場に伴う物理現象の専門的な知見を持つとともに、磁場中で使用可能な材料プロセスと分析のための装置群を有する唯一の研究所です。このような環境の中で、私の主たる活動は強磁場利用に関するいくつかのプロジェクトの推進です。私の毎日の仕事は、これらのプロジェクトを実現するために、その進行を管理し、サポートすることです。また、関連する技術開発と、新しいパートナー探しも私の活動の一環です。最近、家族の状況とうまくマッチし、家族で海外長期ステイできることになりました。私のこれまでの研究活動から、当然ながら、磁気科学で優れた業績をもつ日本に赴くこととなりました。現在は、つくばの物質・材料研究機構(NIMS)の強磁場施設を使用することができ、廣田憲之氏らが開発した、世界で唯一の強磁場下で利用可能な顕微鏡を用いて研究しています。高度に専門的な環境に恵まれつつ、数年来になるNIMSとCRETAの密接な協力関係を強め、信頼に満ちた雰囲気の中、ノウハウの交換と知識の共有に努めています。

・フランソワーズ・ウラン-マツダ博士、理化学研究所基幹研究所(ASI), 理化学研究所-フランス国立医学研究機構(INSERM)、リピドダイナミクス研究推進グループ「フランス国立医学研究機構の女性研究者として、日本で細胞内のコレステロール輸送を研究して」

コレステロールは、細胞膜の主な構成要素の一つで、細胞膜の構造と透過性を調節する役割をもっています。コレステロールは、ステロイドホルモンや胆汁酸の原料であり、私たちの体をつくる大事なものです。しかし、多量のコレステロールは有毒で、アテローム動脈硬化症や糖尿病の原因となります。したがって、コレステロールの濃度や細胞内での分布は厳密に制御されています。ほ乳類の細胞では、コレステロールは生合成や血液中のLDL(コレステロールが豊富なリポタンパク質)の取り込み(すなわちエンドサイトーシス)によって供給されます。発表の前半では、日本での私の主な研究テーマについてお話しします。それは、細胞内でのコレステロールの輸送には、ビス(モノアシルグリセロ)リン酸(BMP)という特殊な脂質が深く関係しているという話です。この脂質は、後期エンドソーム、リソソームと呼ばれる細胞小器官に濃縮され、特殊な膜の領域を形成しています。BMPとコレステロールが相関していることは、ニーマン・ピック病C型やその他のライソソーム病のような疾病の研究、あるいは薬剤投与によって引き起こされるリン脂質症の研究により明らかになっています。BMPは重要かつ特殊な段階でコレステロールホメオスタシスに関わることから、エンドソーム内でBMPの濃度を適切に調節することが、粥状硬化症(動脈硬化症の一種)の新しい治療対象となりうると考えられます。
発表の後半では、私の個人的な経験をお話ししたいと思います。私は、フランス国立医学研究機構(Inserm)の国際共同研究室(LIA)で研究を行っています。この研究室は理研-Insermリピドダイナミクス研究推進グループ(IRLU)といいます。このグループは、私の所属するリヨンのInserm U870と和光市の理化学研究所・基幹研究所・脂質生物学研究室間で発足しました。私が家庭生活および研究業務をどのように行ってきたかについて、フランスと日本の私の生活を比較しながら、お話ししたいと思います。また、理研とInsermの協力プログラムの利点についても触れたいと思います。

・ナディア・エル・ボライ博士 インディペンデント・リサーチャー「私の日本での研究体験、とりわけ不妊について」

不妊に関する私の研究は、東海大学医学部の博士課程(1991年-1996年)に始まります。不妊の原因

最終更新日 23/02/2016

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